お気に入りのニットを一冬着ただけで、脇の下と袖口が毛玉だらけになっていた。バッグを掛けていた側だけ、生地が毛羽立って白っぽくなっている。手で引っ張って取ろうとしたら、糸が引きつれて小さな穴が開いた。ニットにまつわる困りごとは、だいたいこのあたりに集約されます。
先にお伝えしておくと、毛玉ができない方法というものは存在しません。毛玉は繊維同士の摩擦で必ず起きうる現象で、着る以上は避けられないからです。ただし、できるスピードを大きく遅らせることと、できてしまったものを生地を傷めずに取ることは十分に可能です。この記事では、その二つを具体的な手順として整理していきます。

そもそも毛玉はどうやってできるのか
生地の表面がこすれると、繊維の先端が生地から飛び出して「毛羽(けば)」になります。この毛羽同士がさらに摩擦を受けて絡み合い、丸まったものが毛玉です。つまり、毛玉ができる直接の原因は摩擦であり、着ている限りゼロにはできません。
ここで重要なのが、素材による違いです。ウールやカシミヤなどの天然繊維は、毛玉ができても繊維が切れやすく、自然に落ちることがあります。一方、アクリルやポリエステルなどの化学繊維は繊維の強度が高いため、できた毛玉が落ちずに残り続けます。化繊混のニットのほうが毛玉が目立ちやすいのは、このためです。
毛玉ができやすいのは、次の三つの条件が重なる場所です。
1. こすれる場所(脇の下、袖の内側、バッグを掛ける肩、椅子に当たる背中)
2. 短い繊維が多い素材(毛足の短いもの、化繊混)
3. 連続して着ている状態(繊維が回復する時間がない)
素材によって、できやすさは変わる
買う段階で組成表示を見ておくと、後の手間がずいぶん変わります。おおまかな傾向は次のとおりです。
| 素材 | 毛玉のできやすさ | できた毛玉の性質 |
|---|---|---|
| ウール | できる | 繊維が切れやすく、落ちることがある |
| カシミヤ | できやすい | 繊細だが、天然繊維なので取れやすい |
| アクリル・ポリエステル | できやすい | 繊維が丈夫で、落ちずに残りやすい |
| コットン | 比較的できにくい | 毛羽は出るが玉になりにくい |
| 混紡(ウール+アクリルなど) | 組成による | 化繊の比率が高いほど残りやすい |
アクリルは価格を抑えられ、発色もよく、家庭で洗いやすいという利点があります。ただしできた毛玉が残り続けるという性質があるため、手入れの手間はかかると考えておいてください。毎日のように着る一枚には、この点を織り込んで選ぶと後悔が減ります。
手入れの手間を少しでも減らしたい方は、毛玉が小さいうちに整えられる毛玉取りブラシを手元に置いておくと安心です。

予防その一:着方を変える
もっとも効果が大きいのに、いちばん見落とされているのが着方です。
連続で着ない
一度着たニットは、一日から二日休ませてください。繊維は着用中に押しつぶされ、時間をかけて元の状態に戻ろうとします。回復する前にまた着ると、つぶれた状態のまま摩擦を受けるため、毛羽立ちが加速します。ニットは二〜三枚を回して着るのが理想的です。
バッグの掛け方を意識する
ショルダーバッグを同じ側に掛け続けると、その部分だけが集中的にこすれます。左右を交互に替える、リュックにする、といった工夫で摩擦が分散されます。
アウターとの組み合わせを見る
ニットの上に硬い素材のコートを羽織ると、袖の内側で摩擦が起きます。裏地がついたコートのほうが滑りがよく、摩擦は少なくなります。裏地のないアウターを着る日は、下に着るニットを毛玉に強いものにするといった使い分けも有効です。
着る前後にブラシをかける
洋服用の豚毛ブラシを一本持っておくと便利です。着たあとに毛の流れに沿って優しくかけるだけで、絡みかけた毛羽がほどけ、毛玉になる前の段階で防げます。ホコリも同時に落ちるので、生地が長持ちします。

予防その二:洗い方を変える
洗濯機の中は、ニットにとってもっとも過酷な環境です。ここでの摩擦が毛玉の大きな原因になります。
洗える素材かを確認する
まずは衣類のタグにある取扱表示を確認してください。桶のマークに手が入っていれば手洗い、バツ印がついていれば家庭での水洗いはできません。表示記号の意味は消費者庁の家庭用品品質表示に関するページで確認できます。
おしゃれ着用の中性洗剤を使う
一般的な弱アルカリ性の洗剤は洗浄力が高いぶん、ウールなどの動物性繊維には負担がかかります。おしゃれ着用の中性洗剤(花王のエマール、ライオンのアクロンなど)は、繊維へのダメージを抑える設計になっています。洗い方の手順はアクロンの公式サイトで紹介されており、エマールの公式サイトでも素材別の洗い方が案内されています。柔軟剤を併用すると繊維の滑りがよくなり、摩擦が軽減されます。

洗濯ネットは「サイズが合ったもの」を選ぶ
ここが盲点です。大きすぎるネットに入れると、中でニットが激しく動いてしまい、ネットの意味が半減します。畳んだニットがぴったり収まる大きさの洗濯ネットを選び、目の細かいものを使ってください。ニット用として売られている、四角い形のネットが使いやすいです。
裏返して、畳んで入れる
裏返すことで、表面が直接こすれるのを防げます。丸めずに、きれいに畳んでからネットに入れると、中での動きがさらに小さくなります。
水流はいちばん弱いコースで
「手洗いコース」「おしゃれ着コース」「ドライコース」など、機種によって名称は違いますが、もっとも水流の弱いものを選びます。脱水は短く、三十秒から一分程度で十分です。長い脱水は型崩れと繊維の傷みにつながります。
予防その三:干し方
ニットをハンガーに掛けて干すと、水を含んだ重みで肩と丈が伸びます。平干し用のネットを使い、平らな状態で乾かすのが基本です。平干しネットがない場合は、洗濯物用のピンチハンガーの上にタオルを敷いて、その上に広げるという方法もあります。
乾かすときは、直射日光を避けて風通しのよい日陰で。ウールは紫外線で変色したり、繊維が硬くなったりすることがあります。
ニットを乾燥機にかけると、繊維が縮んでフェルト状に固まってしまうことがあります。一度縮むと元には戻りません。乾燥機の使用可否は、必ず取扱表示で確認してください。
できてしまった毛玉の取り方
ここからは対処です。やり方を間違えると生地に穴が開くので、順番を守ってください。
手順一:まずブラシで試す
いきなり刃物や電動の道具を当てるのではなく、最初は毛玉取りブラシや豚毛のブラシで生地の表面を撫でてみてください。絡みかけたばかりの軽い毛玉は、これだけでほどけます。生地への負担がもっとも少ない方法です。
手順二:電動の毛玉取り器を使う
固く丸まってしまった毛玉には、電動毛玉取り器が向いています。ただし刃で刈り取る道具なので、使い方を誤ると生地を傷めます。コツは次のとおりです。
- 平らな場所に生地を広げる。着たまま、あるいは吊るしたまま当てるのは避けてください。生地が引っ張られて刃が食い込みます。
- 押し付けず、優しく円を描くように滑らせる。力を入れるほど、生地ごと削れます。
- 刃の高さを調整できる機種なら、最初はいちばん生地から遠い設定で試す。
- 目の粗いローゲージニットには、間隔の広いガードが付いたものを選ぶ。編み目が粗いと、糸ごと吸い込まれることがあります。
手順三:大きな毛玉はハサミで根元から
ぽつんと大きく育った毛玉が数個だけなら、眉毛用の小さなハサミで根元から切るのがいちばん安全です。生地を平らに置き、毛玉だけをつまんで、生地を切らないよう注意しながら根元でカットします。
やってはいけないこと
- 手で引きちぎる…毛玉は生地の繊維とつながっています。引っ張ると周囲の糸まで引き出され、引きつれや穴の原因になります。
- T字カミソリで削る…できなくはありませんが、刃が生地に食い込みやすく、薄い生地では切ってしまう危険があります。使う場合は生地をぴんと張らず、ごく軽く撫でる程度に。
- 粘着テープで剥がす…毛玉は取れず、かえって毛羽を引き出します。

保管のしかたで来シーズンが変わる
畳むのが基本、ハンガーは条件つき
ニットは、重みで伸びやすい衣類です。特に厚手のものやざっくり編まれたものは、ハンガーに掛けると肩の部分が張り出し、丈も伸びます。基本は畳んで、引き出しや棚に平置きしてください。
どうしても掛けたい薄手のニットは、肩幅に厚みのあるハンガーを使うか、袖を身頃側に折り込んでからハンガーに掛ける方法があります。ただし長期保管には向かないので、シーズンオフには畳んで収納してください。
しまう前に必ず洗う
汗や皮脂が残ったまましまうと、黄ばみの原因になるだけでなく、虫を呼び寄せます。虫は動物性の繊維を好むため、ウールやカシミヤは特に注意が必要です。
防虫剤と除湿剤を組み合わせる
- 防虫剤…成分が気化して衣類の上から下へ広がるため、衣類の上に置くのが効果的です。
- 除湿剤…湿気は下にたまるので、収納の下部に。カビの発生を抑えられます。
- 不織布の衣装ケース…通気性があり、湿気がこもりにくくなります。密閉容器は避けてください。
圧縮袋は慎重に
場所を節約できますが、ニットは繊維の間に空気を含むことで暖かさを保っています。長期間圧縮すると繊維がつぶれ、ふくらみが戻りにくくなることがあります。短期間の移動用と割り切るのが無難です。
よくある質問
高いニットなら毛玉はできませんか。
価格と毛玉のできやすさは、必ずしも比例しません。ただし、繊維が長く上質な原料を使った糸は毛羽が出にくい傾向があります。カシミヤは繊細で毛玉ができますが、天然繊維なので落ちやすいという性質もあります。値段よりも、素材の組成表示を見るほうが判断材料になります。
毛玉取り器を使うと生地が薄くなりませんか。
使いすぎれば薄くなります。毛玉取り器は毛玉を刈り取る道具なので、繰り返せば生地の表面は削られていきます。だからこそ、まずはブラシで試す、押し付けない、シーズン中に何度も当てすぎない、という順番が大切になります。
洗濯するたびに毛玉が増える気がします。
ネットのサイズが合っていないか、水流が強すぎる可能性があります。ニットが中で泳いでしまうと、洗濯槽の壁や他の衣類とこすれます。ぴったりのネットに畳んで入れ、いちばん弱いコースを試してみてください。
脇の下だけ集中的に毛玉ができます。
腕を動かすたびに前身頃と後ろ身頃がこすれる場所なので、構造上どうしても集中します。インナーを滑りのよい素材にする、連続して着ないといった対策で緩和できます。完全になくすことは難しい箇所です。
クリーニングに出せば毛玉は取ってもらえますか。
店舗によっては、追加のサービスとして毛玉取りに対応しているところがあります。ただし標準の料金に含まれているとは限らないため、預ける際に確認してください。大切なニットで自分では不安という場合は、相談してみる価値があります。
毛玉ができた場所が薄くなってきました。直せますか。
生地が薄くなってしまった部分を元に戻すことはできません。穴が開いた場合は、かけつぎ(かけはぎ)という修理を扱う専門店であれば、目立たなく直せることがあります。薄くなる前の段階で、着方と洗い方を見直すのが現実的な対策です。
まとめ
ニットの毛玉は、摩擦が原因である以上、完全に防ぐことはできません。それでも、連続で着ない・ネットに畳んで入れて弱く洗う・平らに干す・脱いだらブラシをかけるという四つを回すだけで、できるスピードは目に見えて遅くなります。
そしてできてしまったら、ブラシ、電動の毛玉取り器、大きなものはハサミという順番で、生地に負担をかけずに取る。手で引っ張るのだけは避けてください。シーズンの終わりには洗ってから、畳んで防虫剤と一緒に収納する。この流れができていれば、気に入ったニットを何年も着続けられます。


